母乳は「白い血液」と呼ばれるように血液とほぼ同じ成分でできており、赤ちゃんの栄養となるほか、ウイルスや細菌から赤ちゃんを守る大切な役割も果たしています。
そして、母乳の成分や質はママの食べた物が大きく影響します。
この記事では、母乳の成分やカロリー、ママの食事と母乳の関係についてお伝えします。
目次
母乳に含まれる免疫成分とカロリー
母乳のカロリーは100gあたり61kcalほど。
炭水化物・たんぱく質・脂質の3大栄養素をはじめ、赤ちゃんの成長をサポートする栄養成分が豊富に含まれています。
ところで、母乳の成分は赤ちゃんが成長するにしたがって変化していることをご存じですか?
初乳(最初の2~3日)
出産後、乳房が作る初期の母乳が初乳。
濃くて粘り気があり、まだ弱い新生児の体に栄養をたっぷり与えます。
黄色っぽく、新生児を守る意味から「黄金の液体」と呼ばれることも。
初乳の成分:抗体と白血球を多く含み、赤ちゃんを感染症や病気から守るため「天然のワクチン」と呼ばれています。たんぱく質の割合が高くて、ビタミンやミネラルも豊富です。
移行乳(産後4~15日目)
産後4~15日目の母乳である移行乳は、色も質感もクリーム状に。
赤ちゃんが飲む量も大幅に増えるため、乳房が大きくなるのを感じる頃です。
移行乳の成分:脂肪分・カロリー・ラクトース(天然の糖類)の値が高くなり、急成長する赤ちゃんの理想的な栄養源に。初乳に比べて免疫成分とたんぱく質が減りますが、赤ちゃんの健康維持に必要な量は充分含まれています。
成乳(産後16日以降)
成乳になると、サラサラとした感触になり、半透明の青みがかった白色に変わります。 この頃になると母乳の量も安定し、糖質がさらに増えて甘くなります。
成乳の成分:たんぱく質、糖類、ビタミン、ミネラル、ホルモン、成長因子、酵素や生細胞などを豊富に含んでいます。赤ちゃんの健康状態や成長に合わせて成分が変化する不思議なメカニズムもあります。
母乳が出る仕組み
授乳時に、我が子への愛おしさや母乳の神秘を感じるママも多いでしょう。
そもそも母乳はどうして出るのでしょうか?
妊娠した女性の体は、2つのホルモン、プロラクチンとプロゲステロンが盛んに分泌されます。
乳腺の発達を促すのがプロラクチン、母乳が出ることを抑制するのがプロゲステロン。このため、妊娠中は乳房が大きくなっても母乳が出てくることはないのです。 乳首から透明や黄色の液体が出てくる方もいますが、これは出産後に出てくる母乳とは違うものです。
出産をさかいに、母乳が出るのを抑えていたプロゲステロンの作用は弱まり、母乳を出す働きをするホルモンのオキシトシンが分泌されるようになります。
「母性ホルモン」と呼ばれているプロラクチンは、乳腺を発達させて母乳を作るほかに、赤ちゃんをかわいいと思う気持ちを高めてくれます。
また、オキシトシンは「しあわせホルモン」と呼ばれるように、ママに幸福感や恍惚感を与える作用があります。
この2つのホルモンは、赤ちゃんに乳首を吸われることが刺激となって分泌されるので、母乳が出にくいと思っている方も、赤ちゃんに何度も乳首を吸わせているうちに出やすくなることがよくあります。
母乳育児にもメリットとデメリットがある
現在、授乳期間をどう過ごすかについては、各家庭の事情に合わせて自由に選択しています。
かつて「母乳で赤ちゃんを育てることが理想」とも言われていましたが、もちろん、母乳育児にもメリットとデメリットがあります。
母乳育児のメリット
授乳することで産後の母体の回復を早めたり、母乳を作る際にエネルギーを消費するため減量しやすくなる場合もあります。また、乳がんや子宮がん、卵巣がん、骨粗しょう症予防につながるという研究結果もあります。(※1)
栄養素と免疫成分が多く含まれるため、赤ちゃんにとっても、感染症やアレルギー、肥満、糖尿病などの予防につながるそうです。 (※2)
授乳を通したスキンシップは赤ちゃんとの絆をより強めますし、母乳はいつも新鮮かつ衛生的。コストがかからないことも利点です。
母乳育児のデメリット
産後の体力が回復していない中での睡眠不足や疲労の蓄積は、ママにとって大きなダメージ。母乳は消化が良く腹持ちしないため、昼夜を問わず頻繁に授乳をしなくてはなりません。
また、哺乳瓶のように飲ませた量を確認できないため、量が足りているか不安に感じることも。
赤ちゃんの栄養やコスト面では魅力的な母乳育児ですが、ママの負担も大きく、「寝られなくてツラい」「体力的に限界」と感じる方も少なくありません。
どうか無理をせず、赤ちゃんのためにもママの体を一番に考えてくださいね。
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ママの食事が、そのまま赤ちゃんの栄養として摂取される
母乳のもとになるのはママが口にした食べ物です。
母乳は血液から作られるため、授乳期間中は食事などの他にも、薬やアルコールには特に気を付けたいですね。
脂が多い食事揚げ物など脂質の多い食事は母乳に含まれる脂肪分も多くなるので、乳管が詰まりやすくなって乳腺炎の原因にも。生クリームや乳製品、脂肪分の多いお肉などは食べる量に注意しましょう。
薬薬を服用するとわずかながら母乳に成分が移りますが、妊娠中の移行量に比べるとはるかに少なく(10分の1~100分の1以下)、赤ちゃんへの影響は少ないと考えられています。
しかし一部、使用を控えたい薬もあるので、心配な場合はかかりつけ医などに相談しましょう。
授乳中の喫煙は、ニコチンなどの有害物質が赤ちゃんのぜん息や呼吸器の病気、アレルギー性の病気などの原因になるおそれがあります。
また、アルコールの過剰摂取は母乳の出を悪くし、赤ちゃんの発育を遅らせる可能性も。授乳中はアルコールを極力控え、もし飲んだ場合は、飲酒から2時間以上あけてから授乳するなどの対応をとりましょう。
その他嗜好品カフェインは、コーヒーだけでなく紅茶、緑茶、コーラなどにも含まれます。1日1~2杯程度にとどめ、できるだけノンカフェインのコーヒーや麦茶などで代用を。
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母乳の88%は水分。授乳すると水分が失われるのでこまめに水分補給しましょう。
冷たい飲み物は胃腸を冷やしてしまい母乳の出に影響することもあるので、できるだけ常温や温かい飲み物を選ぶといいですね。
母乳育児でスリムに!? 産後の体調管理について
母乳育児中のママたちからは、体重が落ちて元の体形に戻った、なんてウワサも聞きます。たしかに母乳は血液からできているので「母乳を作る=カロリー消費」にはなります。
ただし、母乳育児中の無理なダイエットは禁物です。
きちんと栄養が摂れないと母乳の質が落ちてしまううえに、貧血など母体に影響を及ぼすこともあります。
では、授乳期間中はどんなことに気をつけて体調管理をすれば良いのでしょうか?
一般的なダイエットは、カロリーを抑えることを優先しがちですが、授乳中は母乳や母体回復のためにも良質でバランスのよい食事を心がけることが大切です。
もちろん、基本的に食事制限は避けるべきです。
もしも体重が気になるようであれば、
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和食を中心とした脂質の少ない食事を摂る
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良質なたんぱく質(赤身の肉や魚、大豆製品などをバランスよく食べる)
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薄味でバランスのとれた食事を心がける
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しっかり噛んで、ゆっくり食べる
母乳を作るには鉄分豊富な食材である赤身の肉や豚や鶏のレバー、良質なたんぱく源となる大豆類などがおすすめです。ホルモンバランスが乱れがちな産後は、イソフラボンを含む大豆類も積極的に摂りましょう。
母乳の栄養やママの体を考えての体重減少はなかなか大変です。
すぐに体形に変化は表れないかもしれませんが、赤ちゃんとママの健康を考えてゆったりと体重減少に取り組みたいですね!
赤ちゃんの食物アレルギー発症に母乳は影響があるのか
母乳育児をするママの中には、赤ちゃんの食物アレルギー発症を心配する方も多いと思います。
しかし妊娠中・授乳中のママの食事は、赤ちゃんの食物アレルギー疾患の発症にはあまり関係ないそう。
母乳の中にはママが摂取した食物のアレルゲン(アレルギーの原因物質)がごくわずかに検出されますが、お子さんが特定の食物にアレルギーを起こすことがわかっている場合を除いて、食物制限は不要です。
食物アレルギーを気にして食べるものを制限すると、ママや赤ちゃんに栄養障害を引き起こす可能性があり、日本小児アレルギー学会(※)も、妊娠中・授乳中に母親が食事制限を行うことを推奨していません。
第1子に食物アレルギーがあった場合も、第2子以降自己判断で食物の除去をしたりせず、まずお医者さんに相談するようにしましょう。
(※)日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会 食物アレルギー診療ガイドライン2016 ダイジェスト版より
まとめ
母乳の成分やカロリー、ママの食事が母乳に与える影響などについてお伝えしました。
母乳育児は赤ちゃんへのメリットも大きいですが、ママの食べ物や生活習慣に一定の気遣いが必要です。
それがストレスになってしまうと、赤ちゃんにも悪影響を与えかねませんので、無理のない範囲で上手に母乳育児をとり入れたいですね。
この記事を監修した人
約9年間に渡り保育園栄養士として離乳食・幼児食・アレルギー食・食育活動に携わる。現在は保育園給食の現場指導やコラム執筆、一般社団法人母子栄養協会講師などを務め、乳幼児食はもちろん学童食から妊産婦食までの食事指導やアドバイスを行っている。2児の母。